テニス肘(外側上顆炎)は、テニスをしていない方にも頻繁に見られる症状です。多くの方が肘の局所的な問題として捉えがちですが、実は身体全体の運動連鎖の中で発症することが多く、特に胸椎の歪みが大きな影響を与えている可能性があります。今回は、テニス肘の痛みと胸椎の関連性について詳しく解説し、なぜ肘だけの治療では根本的な改善が困難なのかをお伝えします。
テニス肘の基本的な理解
テニス肘とは何か
テニス肘は正式には「外側上顆炎」と呼ばれ、肘の外側にある骨の突起部分(外側上顆)に付着する筋腱に炎症が生じる疾患です。主に手首を反らす動作や物を握る動作を繰り返すことで発症します。
患者さんからよく聞かれる症状として、肘の外側の痛み、物を持ち上げる際の痛み、タオルを絞る動作での痛み、ドアノブを回す際の不快感などがあります。興味深いことに、安静時には痛みが軽減する傾向があることも特徴の一つです。
従来の治療法とその限界
一般的なテニス肘の治療は、炎症を抑える薬物療法、局所への注射、物理療法などが中心となります。確かにこれらの治療により一時的な症状の改善は期待できますが、根本的な原因が解決されていない場合、再発を繰り返すケースが少なくありません。
「湿布を貼っても良くならない」「注射をしても また痛くなる」このような声を聞くのは、局所的な治療だけでは不十分であることを示唆しています。真の原因は、もっと広い視点から身体全体を見る必要があるのです。
胸椎の機能と重要性
胸椎の解剖学的特徴
胸椎は背骨の中でも12個の椎骨から構成される部分で、肋骨と連結して胸郭を形成しています。一見すると肘とは遠く離れた部位に思えますが、胸椎は上半身の重量を支え、肋骨との連結により胸郭の安定性を保ち、脊柱全体のカーブを維持するという重要な構造的支持機能を担っています。
さらに運動の面では、体幹の回旋運動の中心となり、肩甲骨の動きの土台として機能し、上肢の運動連鎖の起点としての役割も果たしています。つまり、胸椎は上肢の動きすべてに深く関わっているのです。
現代生活と胸椎の歪み
現代社会では、長時間のデスクワーク、スマートフォンの使用、運動不足などにより、胸椎の歪みが生じやすい環境にあります。特にデスクワークでは、パソコンの画面を見つめながら同じ姿勢を何時間も続けることで、自然と頭部が前に出て、肩が内側に巻き込む「猫背姿勢」が定着してしまいます。
また、家事においても胸椎への負担は決して軽くありません。洗い物をする際の前かがみの姿勢、掃除機をかける時の前屈み姿勢、洗濯物を干す際の繰り返し動作など、これらの日常的な動作が積み重なることで、胸椎のカーブが徐々に失われていきます。料理をする際にも、シンクやコンロの高さが合わないことで、無意識のうちに不自然な姿勢を強いられることが多いのです。
さらに現代人の多くが抱える「巻き肩」の姿勢は、胸椎の正常なカーブを失わせ、結果として上肢全体の運動パターンを変化させてしまいます。このような姿勢の変化は一日や二日で起こるものではなく、数ヶ月から数年にわたって徐々に進行し、最終的に痛みという形で表面化するのです。
運動連鎖から見るテニス肘の発症メカニズム
上肢の運動連鎖とは
人間の身体は、個々の関節や筋肉が独立して働くのではなく、互いに連携して動作を行います。これを運動連鎖と呼びます。上肢の運動連鎖において、胸椎は非常に重要な役割を果たしており、正常な状態では胸椎から肩甲骨、肩関節、肘関節、手関節へと順序よく力が伝達されます。
この連鎖がスムーズに機能している時、各関節への負担は適切に分散され、特定の部位に過度なストレスがかかることはありません。しかし、どこか一箇所でも問題が生じると、全体のバランスが崩れてしまいます。
胸椎の歪みが痛みを生み出すメカニズム
胸椎の歪みがなぜ直接的に痛みと関連するのかを理解することは重要です。胸椎が正常な位置から逸脱すると、まず周辺の筋肉や靭帯に異常な張力がかかり始めます。胸椎周囲の深層筋である多裂筋や回旋筋は、本来であれば胸椎を安定させる役割を担っていますが、歪みが生じるとこれらの筋肉が過度に緊張し、慢性的な疲労状態に陥ります。
この筋肉の緊張は、神経の圧迫や血流の悪化を引き起こし、肩甲骨周辺や腕への関連痛として現れることがあります。さらに、胸椎の歪みは胸郭の動きも制限するため、呼吸に関わる筋肉群にも影響を与え、慢性的な酸素不足状態を作り出します。
興味深いことに、胸椎の歪みは自律神経系にも影響を与えます。交感神経の興奮状態が続くことで、筋肉の緊張がさらに高まり、痛みの感受性も増大します。このようにして、胸椎の構造的な問題が機能的な問題へと発展し、最終的に肘の痛みという形で現れるのです。
胸椎の歪みが引き起こす連鎖的影響
胸椎の構造的・機能的問題は、運動連鎖を通じて上肢全体に影響を波及させます。胸椎に歪みが生じると、この運動連鎖に深刻な問題が生じます。まず、胸椎の歪みにより肩甲骨の正常な動きが制限されるようになります。肩甲骨の安定性が低下すると、上腕骨頭の位置にも異常が生じ、肩関節全体の機能に影響を与えます。
肩甲骨の動きが制限されることで、肩関節により大きな負荷がかかるようになり、肩関節周囲筋の過緊張が生じます。また、上腕二頭筋や三頭筋のバランス異常も発生し、これらの変化が最終的に肘関節への過度な負担として現れます。
本来であれば胸椎から始まる滑らかな動きが、上位の関節機能異常により、肘関節が代償的に過度な動きを強いられる状況が生まれます。前腕の筋群に異常な緊張が生じ、外側上顆への付着部ストレスが増大した結果として、テニス肘の症状が現れるのです。
具体的な症状の現れ方
段階的な症状の進行
胸椎の歪みに起因するテニス肘は、突然現れるものではありません。多くの場合、段階的に症状が進行していきます。
初期段階では、軽度の肩こりや背中の張り感から始まります。この時期は多くの方が「疲れているだけ」と感じ、見過ごしてしまいがちです。次第に腕の疲労感が増加し、細かい作業での違和感を覚えるようになります。
進行段階に入ると、肘の外側に時々痛みを感じるようになります。物を持ち上げる際の不快感や、朝起きた時の腕のこわばりも現れ始めます。この段階でも、多くの方は「使いすぎかな」程度に考えがちです。
慢性段階では、持続的な肘の痛み、日常生活動作での明らかな支障、さらには夜間痛まで出現するようになります。この段階になって初めて医療機関を受診される方が多いのが現状です。
他の症状との関連性
胸椎の歪みに起因するテニス肘の場合、肘の症状以外にも様々な症状を併発することがあります。慢性的な肩こりや頭痛、手指のしびれ、背中の痛み、呼吸の浅さなど、一見すると関連性がないように思える症状も、実は同じ根本原因から生じている可能性があります。
これらの症状が同時に現れる場合は、局所的な問題ではなく、全身的な機能異常を疑う必要があります。
診断と評価のポイント
包括的な評価の重要性
テニス肘の根本原因を特定するためには、肘だけでなく全身の評価が必要です。姿勢分析では立位での全身アライメント評価を行い、胸椎のカーブの確認や肩甲骨の位置関係を詳しく調べます。
動作分析では、肩甲上腕リズムの確認、体幹回旋動作の評価、上肢挙上動作の観察を通して、運動連鎖のどこに問題があるかを特定します。さらに筋機能評価では、深層筋群の機能確認、表層筋群の緊張状態評価、筋力バランスの確認を行います。
これらの総合的な評価により、なぜその方にテニス肘が発症したのか、どこに根本的な原因があるのかを明確にすることができるのです。
根本的な改善へのアプローチ
胸椎機能の改善
根本的な改善を目指すためには、まず胸椎の機能改善から始める必要があります。正しい座位姿勢の習得は基本中の基本であり、日常生活の中で意識的に取り組むべき課題です。胸椎伸展運動の実施や肩甲骨周囲筋のストレッチも重要な要素となります。
さらに胸椎回旋運動の練習、体幹深層筋の強化、肩甲骨安定化エクササイズなど、より積極的な運動療法も必要になります。これらの運動は、単に筋肉を鍛えるだけでなく、正しい動きのパターンを身体に覚えさせる意味でも重要です。
運動連鎖の再構築
改善のプロセスは段階的に進める必要があります。まず胸椎の可動性を改善し、次に肩甲骨の安定性を向上させます。その後、肩関節機能を正常化し、最終的に肘関節への負担を軽減するという流れです。
この順序を間違えると、かえって症状が悪化する場合もあるため、専門家の指導のもとで進めることが重要です。
職場と家庭での具体的なリスク要因
デスクワーカーの場合、一日8時間以上同じ姿勢を続けることで、胸椎への負担は想像以上に大きくなります。モニターの高さが適切でない場合、無意識のうちに首を前に突き出す姿勢となり、これが胸椎上部の過度な屈曲を招きます。また、キーボードやマウスの位置が悪いと、肩が挙上したままの状態が続き、胸椎と肩甲骨の関係性が崩れてしまいます。
一方、家事労働においても多くのリスクが潜んでいます。キッチンでの作業は特に問題となりやすく、シンクの高さが低いことで前かがみの姿勢が強制されます。この姿勢では胸椎が過度に屈曲し、肩甲骨が外転したままの状態が続きます。掃除機をかける際の中腰姿勢、洗濯物を干す際の上下運動、アイロンがけでの前傾姿勢なども、胸椎に慢性的なストレスを与える要因となります。
これらの日常動作が繰り返されることで、胸椎周囲の筋肉は常に緊張状態に置かれ、やがて構造的な変化を引き起こします。重要なのは、これらの変化が徐々に進行するため、本人が自覚症状を感じるまでに相当な時間がかかることです。痛みが現れた時には、すでに胸椎の歪みが相当進行している可能性が高いのです。
予防策と日常生活での注意点
日常生活での姿勢管理
正しい姿勢を維持することは、胸椎の歪みを予防し、テニス肘の発症リスクを軽減する上で非常に重要です。長時間同じ姿勢を避け、定期的なストレッチを実施し、適切な枕や寝具を使用することで、睡眠中の姿勢も改善できます。
特にスマートフォンの使用時の姿勢には注意が必要です。画面を見下ろす姿勢が続くと、頭部前方位姿勢となり、胸椎のカーブが失われやすくなります。
運動習慣の確立
定期的な運動は胸椎の機能維持に欠かせません。週3回以上の有酸素運動、体幹筋群の強化運動、柔軟性改善のためのラジオ体操や太極拳などの軽運動、水中ウォーキングやプールでの運動など、多角的なアプローチが効果的です。
重要なのは継続性です。短期間の集中的な運動よりも、長期間にわたって継続できる運動習慣を身につけることが、予防と改善の鍵となります。
生活習慣の見直し
治療と並行して、日常生活での根本的な見直しが不可欠です。デスクワーカーの方には、モニターの高さを目線と同じレベルに調整し、キーボードとマウスを肘が90度になる位置に配置することをお勧めします。また、1時間ごとに立ち上がって胸椎の伸展運動を行う習慣を身につけることで、長時間の同一姿勢による悪影響を軽減できます。
家事においても工夫次第で胸椎への負担を大幅に減らすことができます。キッチンでの作業時には、足元に台を置いて作業面との距離を調整したり、掃除機は身長に合った柄の長さに調整するなど、小さな改善の積み重ねが大きな効果をもたらします。洗濯物を干す際には、低い位置から高い位置へと段階的に干すことで、急激な姿勢変化を避けることも重要です。
さらに、定期的な有酸素運動、体幹筋群の強化運動など、積極的な運動習慣の確立も長期的な改善には欠かせません。これらの取り組みは、単に症状を改善するだけでなく、胸椎の歪みの進行を予防し、将来的な痛みの発症リスクを大幅に軽減する効果があります。
まとめ
テニス肘は単なる肘の局所的な問題ではなく、胸椎の歪みに起因する全身の運動連鎖の問題として捉える必要があります。現代社会の生活環境は、知らず知らずのうちに私たちの胸椎に悪影響を与え、それが最終的に肘の痛みとして現れることが少なくありません。
根本的な改善を目指すためには、肘の症状だけでなく、胸椎の機能改善と正しい運動連鎖の再構築が不可欠です。表面的な対症療法では一時的な改善は得られても、根本原因が残っている限り再発のリスクは常に存在します。
症状に悩まされている方は、表面的な治療に留まらず、身体全体のバランスを整える包括的なアプローチを検討することをお勧めします。適切な評価と治療により、症状の改善だけでなく、再発の予防も期待できるのです。
もし慢性的なテニス肘でお悩みの場合は、運動連鎖の観点から身体を評価できる専門家に相談することが、根本的な解決への第一歩となるでしょう。身体は全てつながっているという視点を持って、総合的な改善を目指していくことが大切です。
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